敵わない
最近の黒崎サンはおかしい。
「浦原、今日はトランプで勝負だ」
「はぁ」
毎日やってきてくれるのは嬉しいが意図がいまいち読めない。
来る度に何かしら勝負を持ち掛けて来るのだ。
それはジャンケンに始まり将棋やオセロにチェスまでも。
知ってはいても普段そんなものに触りやしないのだからルールはその都度聞いてすることになる。
百人一首という札の遊びではウルルやジン太やテッサイを含めて行った。
ただ札をウルルに譲ったら真剣にやれと怒られた。
「何をするんスか?」
チャキチャキとカードを繰る黒崎サンを眺めながら問うた。
「ポーカー」
「どういうゲームっスか」
簡単にルールを聞いてハイハイと頷く。
よくもまぁこれだけゲームをやっているものだと自分で思う。
一生分をここでやりつくしているのではとも思ってしまうほどだ。
「じゃあ始めんぞ」
置かれたカードを引き寄せて先程聞いた説明と照らし合わせる。
札を捨てて中央の束から同じだけ引く。
五枚のカードを見るフリでちらりと盗み見る。
たかがゲームのために真剣になっている黒崎サンはとても可愛いし、こんな風に過すのも悪く無い。
でも。
できれば、もっとこう…甘く過ごしたいんですけど。
この遊びが終わるといつもそういう空気にはならず、黒崎サンは門限通りに帰ってしまう。
そんな空気がいつも起こるというのに、当の本人は気にせず毎日違うものを持ってやってくるのだから凄い。
恋人らしいことをするのが嫌でわざとしていることなのではとも疑っても仕方ないだろう。
「コール」
こちらを見て強い目で笑う黒崎サンが見えて、今日は随分機嫌がいいのだとほっと息をつく。
じゃあ今日は泊まって行ってくれる…までは行かなくとももっとゆったりと過せるだろう。
そうとわかれば
「黒崎サン…!」
カードをそこへ捨てて目の前の存在を抱きしめる。
「ぅお!何すんだいきなり!」
「もういいじゃないっスかー。ね、こんな札よりアタシを見てくださいよ」
腕の中にいる黒崎サンは赤い顔をして、別に満更でも無さそうだ。
よし、いける!
「うっせーな。で・カードは!」
札なんて別に放っておけばいいのに、黒崎サンはすり抜けるように散らばった数枚を手にする。
中身がわかれば満足もするだろう、とそれを見守ることにした。
「チクショー!!!」
「え……」
手をブルブルと震わせて突然叫ぶ黒崎サンに唖然としてしまう。
「また俺の負けかよ、トランプならいけると思ったのに!」
「次は絶対お前に勝つ!勝ってやるからな!!」
カバンを引っつかみ、立ち上がりさっさと戸に手を掛けた。
呆然としている意識はスパンと開けられた障子の音に今の状況を思い出す。
「あの、黒崎サン、今日は…」
「帰る!!!!」
大声でそう言い捨て、姿を足音は消えてしまった。
伸ばした手は宙を彷徨い、愛しい人には触れられなかった。
それこそ力無く呆然とそこに佇む。
負ければよかったというのか。
きっとそんなことすれば彼は怒るのだろうけど。
残された部屋で肩を落としながら、腹の中の息を全て吐き出した。
本当に、彼には敵わない。
−終−
これもひとつの駆け引きってことで
2005.06.20
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