ふざけんな






学校から続く道。
別に学校から指定されているわけじゃないけど、大体は同じところを通る。
だからと言って、いつ、何時、何分に通るなんて、決めてるわけじゃない。
細い道の向こうからやってきた存在を確認して、顔を歪めてしまった。



「おや黒崎サン奇遇っスねえ!」



「昨日も一昨日もその前もその前も同じセリフ聞いたぞ」
始めこそは、あぁ本当に奇遇だなんて思ったものだが、何日にも渡ることだと流石に意図的だとわかる。
「そうでしたか?まぁいいじゃないスか」
特にこの男には問題では無いらしく、ただへらへらと笑っている。
何がしたいんだか本当によくわからない。
「何か用かよ。いつもみたいに『別に』は無しだ」
「用なんてホントに無いんスけどねぇ」
扇子で口元を隠して、首を傾げる。
用も無いのに会おうとするなんておかしすぎる。
コレも、フリに違いないと、その様子に苛々しながらも言葉を待った。
「あ、強いて言うなら」
一歩、奴が近付いて、帽子の影からうっすら翠の目が覗いてどきりとしてしまう。



「アナタが好きですよ」



これは伝えなきゃと思ってましたね、と続けて笑った。
膝がふるりと揺れるのを感じて、手に血が込もる。







「ふ、ざけんな!」



小気味良い音が、住宅街に響く。
「痛っ!く、黒崎サーン?」
思いきり殴ったから痛いだろう。
左頬を押さえて唖然としているのが背中でも感じられる。
振り向こうなんて考えない。
ただ足を動かして、走って、そこから逃げ出す。





ふざけんな、ふざけんな!
何であんな冗談で赤くなってんだ俺は!!















   −終−






あぁ。誰に言ってんだ俺は。



2005.06.20