love potion
『すごい効き目なんだよ』
その言葉に見事に踊らされたアラストルはこの日のためだったと、朝から気合を入れていた。
いよいよだ、そう意気込んで見たのは主のダンテ。
昼前に起きてきたダンテは、ソファに座り濃いめのコーヒーを飲んでいた。
「マ・ス・ター!」
普段構ってくれないと拗ねているアラストルは恐ろしく上機嫌でいた。
猫撫で声で歩み寄る愛刀の青年姿にダンテはあからさまに顔を顰めて見せた。
指先にふらふらと小さな小瓶を振っている。
怪しい紫色が、鈍く深く光っている。
「あのさ、これ、飲まない?ってああああ!」
次の言葉がダンテには大いに予想できて、先手を打った。
言葉通り、撃った…愛銃エボニーを。
その見事な射撃の腕前がアラストルの手から見事にその瓶を奪っていた。もちろん傷をつけるなんてことはひとつも無い。
アラストルは床下に広がる水溜りを見て、泣きそうなほど情けなく顔を歪めた。
「何すんだよ折角苦労して…」
「苦労して何だって、ベイビー?」
ジャキ。
文句を口にしようとしていたその口先には銃口が突きつけられ、今にも火を噴きそうでいた。
「これがどういうものなのか、言ってみろよアラストル?」
ダンテは笑顔を浮かべながら手の物に力を込める。
アラストルはその主の怒りにひくりと引きつった笑顔を作った。
「い、いやぁ、そんな…ただお疲れのマスターにお薬を、ね?」
「薬ねぇ」
ダンテは突きつけていた銃を静かに下ろす。
納得をしたのか。いや、その言葉には少しの許しの言葉も乗せられてはいなかった。
アラストルもそれを十分わかっているのか、早い鼓動を感じながら向けられる銃口が無くなっても主の動きを目で追っていた。
その本人は水溜りを作った紫のソレに手を伸ばし、ザリと指の腹でなぞった。
指に付いたそれを唇に付くか付かないか、辺りでクンと匂いを嗅いだ。
「アラストル」
「な、な、なに!」
まずい、と理解する。
恐らく主であるダンテはこのことに、気付いた…そう思ったときには彼の口内がぬるりと濡れた。
口の中に何かある、そうアラストルが察することができるまで少しの時間を要した。
ダンテの指。
開いた口に無理矢理押し込まれた指にアラストルは声にならない声を出した。
先程まで触れていた紫色の液体と、アラストルの唾液が混ざって伝い、ぽたりと垂れる。
ゾクリと、アラストルは背中に這い上がる快感の予兆を感じる。
ダンテはそれを待っていたと言わんばかりに不適に笑う。
「危ない薬なんざ、てめぇで飲んでな」
それだけ言うと、さっさと指をアラストルから引き背を向けて外へのドアへと向かう。
アラストルは真っ青になるとダンテの後を追う。
「ま、ままマスター!あの、ちょ…!」
さっそく疼き始めたこの高鳴りをなんとかしたいアラストルにダンテは振り返り満面の笑みを浮かべた。
「勝手に一人でしてろ」
地獄、と思われる宣告をされアラストルはガクリと膝を落とした。それと同時にドアは無造作に閉められる。
「チクショウ、こんな強い媚薬買うんじゃ無かったぁ」
合法とは言えないラブドラッグ。
後悔してももう遅い。少しの量を体に入れただけでも愛する人を求めて止まない。
アラストルは力無くよろよろと立ち上がると、本当は行われるはずだったダンテとの交わりを情けなく想像しながら奥の部屋へと消えていった。
−終−
上には上がいるってことで、OK?
2005.11.23
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