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夜のスラム。綺麗とは言えないバーに、便利屋たちは今日も集う。
その奥のカウンターで赤いコートの男は背を丸めてテーブルに食いついていた。
「トニー。何で俺と組んでくれねえのよ」
年代物の革のジャケットを着た大柄な男が隣の席に腰を下ろし、何十分も前から話しかけているのを、店のマスターは知っている。
しかし当の彼はというと、聞いていないようなもので目の前のものに一生懸命でいた。
「最近ずっとギルバとばっかじゃねぇかよぉ」
「だってアイツと組むと楽しいんだよ、余計なテマもねえし」
第一儲かる。
トニーはストロベリーサンデーを掻っ込みながら嬉しそうに応えた。
意識は話している相手より確実に、この甘味に取られている。
それが気に入らないのか、カウンターに半分以上乗り出して横から覗き込むような体勢を取った。
「なぁなぁトニー」
「うっせぇなあ、もう。俺は今食べることに夢中なんだよ、邪魔すんな」
口の端にクリームを付けてスプーンを咥えている様子はどう見ても、便利屋での依頼を難なくこなす凄腕だとは思えない。
それを眺めていた男は隣の青年の幼さにごくりと喉を鳴らした。
「そんなことなら。幾らでも奢ってやるぜ」
「え、マジっ?」
空になったガラスの容器からトニーはパッと顔を上げる。
青の澄んだ瞳がキラキラと輝いて、揺るがなかった気持ちがぐらりと揺れた様が端からでも見て取れた。

「おい、相棒。仕事だ」

後ろから掛かった声にトニーは、ぐりんと視界を逆さまにしてその姿を目に入れた。
それは深い青のスーツで身を包み、顔を包帯で覆った男、ギルバであった。
声色は低く落ち着いていて気品も感じ、場所にそぐわない気さえする。
トニーは仕事と聞くと、目を爛々と輝かせ席を立つ。
「OK、行こうぜ!」
ギルバに向かってにぃと笑いかける。
ブーツを慣らし、外へと向かおうとしていた足を途中で止めて、突然振り返る。
「おごり、サンキューな」
展開の早さに付いていけていなかった哀れな男に、トニーは知ってか知らずか幼い顔を見せて笑う。
それだけ言うと、言葉を待たずに鼻歌など刻みながらバーを出て行った。
酒のせいでは無く顔を赤くさせた男を見て、ギルバは包帯から見える深い青をギラリと向ける。
先程まで無かった明らかに怒りと不快の表情に気付いた男はつい背筋を伸ばした。


アイツに手を出すな、殺されたくなければな


口には出ていないが、確かに男はその言葉を感じた。
氷のように固まってしまった情けない姿を見て、ギルバは一瞥するとトニーの後を追うようにその場を後にするのだった。







   −終−







愛すべき束縛




2005.11.04