孤独宣言
裏道を奥へ奥へと進むと、ひとつポツンと派手なネオン。
汚れたドアを押し開けて中へ入ると酒とタバコ、そしてジャズが耳に突く。
ひとつのテーブルに溜まる下衆な男たちをすり抜けて、カウンターへ腰を掛けた。
いつものをひとつ、マスターによく飲む酒を頼む。
「あら、久しぶりねぇ。ダンテ。あんまり来てくれないから寂しかったわぁ」
このバーで人気の歌姫は、俺を見つけると酒を片手にしなだれかかってきた。
スラム街では絶世の美女と言われる女だ、悪い気分では無い。
「ああ、少し立て込んでてな」
溜息を落とす。
ここは家から距離があるから、普段あまり来ない。忙しいなら余計に。
それでも少し前は二週間に一度くらいは来ていたものなのだが。
「うふん、まぁいいわ。今日はゆっくりしていけるんでしょう?」
「…そうだな、そのつもりだ」
テーブルに置かれた酒を口にした。
今日は帰る予定は無い、バーで酒を飲んで、運がよければそこで依頼なんか貰えれば家に帰らなくて済む。
「よかった。ねえ、久しぶりに…」
女はエロティックな笑みを口元に浮かべ、するすると指で体を辿ってくる。
溜まっているところ悪いが、そういう気は今、微塵も無い。
「悪いが……」
そう返そうと彼女を振り返ったとき、言葉を失った。
それは、そこに、家に帰りたく無い原因がいたからで。
「何やってる、ダンテ」
青いコートに銀の髪と、俺と同じ顔。
その顔は無愛想ながらも、怒りを現している。
「バー……ジル」
呆然と名前を呟いた俺を、バージルは「帰るぞ」の一言で腕を引っ張って立たせる。
そして強引に店の扉へ向かう。
同じ体格なのに、問題の無いかのように引き摺られることにも軽いショックを受ける。
「欲求不満なら兄が相手をしてやると言ってるだろう」
「違う!不満なんかして無え!」
何を怖いこと言っているんだ。
大体断ろうとしていただろう、そこは見てなかったのか!
家に居ても、どこかで遊んでいても必ず隣にいて、何かしら手を出そうとしてくるバージル。
心身疲れ、今日こそはもうそれから逃げようと思って、この場所に来たのに、結局コイツと家に帰ることになるのか。
「ああ、もう!頼むから!俺を一人にしておいてくれ!!」
悲痛な叫びがバーに響いた。
客やマスター、そして先程まで色香を放っていた歌姫でさえ、呆然と二人の消えた扉を見やった。
−終−
やめてくれ、勘弁してくれよ
2005.11.04
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