lover
二人掛けのソファに寝そべり、シャツを軽く羽織っただけの格好でゆるりとファッション雑誌を捲る我が弟。
意を決し、ゆっくりと近付いた。
「ダンテ、少し良いか?」
あぁ?と気だるげに見上げてくるダンテの銀色の睫毛に妙に胸が鳴り、駄目だ駄目だと己で頭を振る。
「何だよ、用があるなら早くしてくれ」
ダンテが寝そべっているソファに軽く腰を据える。すると身を引いて、キツク目を向けてきた。
「また気狂いか?」
勘弁してくれよ。
気狂い、ダンテの言うそれは弟であるダンテを己が好いているということだった。
兄弟愛など生ぬるいものでは無く、もちろん精神も身体をも含むものだった。
それをダンテはいやに嫌い、避け続けている、そんな日々が続いてのことだ。
「今まで迷惑を掛けてすまなかった」
実はな、
「とある女と付き合うことに決めた」
ダンテは大きく目を見開いて、瞬きを数回してから、ハ…と小さく息を吐いた。
「バージル、女が駄目なのかと思ってた」
「どこからそんな…」
いや、なんとなく。
そう言うとダンテは珍しく言いよどむ。
あー、だの、えーと、だと言葉が詰まり次が出ない。期待の言葉がその口から出てくるのをこちらはじっと待つ。
ガシガシと銀の髪を掻き乱して、照れたように言葉を発する。
それを待っていた。ダンテの一言を。
しかし、
「とにかく、良かったな。アンタも一応はまともな思考があったってことじゃないか」
目を細めて綺麗に笑う。
「何、だ……嬉しいのか?」
「当たり前じゃねえか、どんな子だよ、今度紹介してくれ。あ、いやアンタ独占欲強そうだしそれは無理か?」
それはもう心の底からというように嬉しそうに笑うもんだから、その次が何も言えない。
こんなつもりでは。
すっかり盛り上がってしまっているダンテに肩など組まれてしまった。普段はそうしろと言っても断固しないくせに、すっかりこちらに心を許してしまっている。警戒心など皆無だ。
こんな、つもりでは。
恋人なんて、もちろんいない。
今も昔も見えているのはダンテ一人だと言うのに…こんなことになったのも全て。
ドアの隙間からずっと見ている二つの目に向かって睨みを効かす。ビクリと震えた気配。
この家に住まう悪魔、魔剣の化身は人型を取りダンテに懐く、名はアラストル。
原因はコイツ、アラストルだ。
あまりにもつれないダンテ。しかしこの魔剣には別で。子供のようなアラストルにどこか甘い。
フラストレーションが溜まってきたそのときに、怯えたように魔剣が口にしたのが『嫉妬をさせたらどうか』と。
恋人ができたと報告すればつれないダンテも少しは焦るのでは?
行かないでくれ、アンタしかいないんだ、なんてことを言うのではないか。などという提案にうっかり名案だと乗ってしまったのがいけなかったのか。
いや、そんな案を出したアラストルが悪いに決まっている。ダンテを巡る敵にアドバイスなど出すのがおかしいのだ、今考えると罠だったとしか思えない。
己がいなくなればダンテといつも一緒、など考えたんだろうあの出来そこないの魔剣は。
……後で覚えていろ。
怒りが伝わったのかドアからヒッと小さな悲鳴が聞こえたが、ダンテは気づくことも無い。
ひとつ溜息を吐く。
これはあまり話が大きくなる前に本当のことを言ってしまおう。
ダンテに近付いてもらえる距離感は嬉しいが、これでは恋愛の対象としても見てはもらえない、それは辛い。
「ダン…」
「頑張れよ、バージル。うまく行くよう応援してるからな!」
間近で眩しいばかりの笑顔で言われ、反射的に「あぁ」と呟いてしまった。しまった、と思ってももう遅い。
これで確定されてしまった、もう後には引けない。
どうしたものか、頭がズキズキと痛む中、取り合えず原因となったあの使えない剣は真っ二つに折ってやろうと決めた。
−終−
違う違う、本当に想っている相手は……何でも無い
2007.06.01
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