夢逢瀬




バージルは一人掛けの椅子に深々と座り、前に体重を掛けその長い手を膝の上で組み合わせていた。
重々しい溜息を隠すかのようにその組んだ掌を口に押し当て、息だけを漏らす。
あからさまに聞いて欲しいと言わんばかりの態度を、ダンテは放って置いていた。
焦れたのかバージルは重い口調でポツリと話し出した。
「最近悩んでいる」
「ふーん…」
バージルの嫌いそうな派手な雑誌をペラリと捲る。中身の無いものなので、目で追うだけ。
「聞きたいか?」
「いや、まったく」
バージルに関わると良いことなんてひとつも、まったくひとつも無いことは当の昔にわかっている。
ダンテは興味も無いということを隠さずにきっぱりはっきり言い放った。
「まあそんなことを言わずに聞け」
「聞きたくねえって言ってんだろ」
「強がるな、可愛い奴だな」
仏頂面でにやりと笑う顔は非常に恐ろしく、ダンテは体を震え上がらせた。
実の兄から発せられる「可愛い」という言葉をこれ以上聞くことは耐えられないとダンテは口を紡ぐ。
「最近夢を見ない」
「はぁ?いいじゃねーか、よく寝てるってことだろ?」
「馬鹿を言え、そういうことを言ってるのではない」
バージルが不機嫌そうに、眉間の皴を深くした。
「じゃあなんだよ」
意味がわからない話を聞かされるだけでも嫌なのに、何だと言うのだ。
ダンテは負けずと眉を寄せた。


「最近、お前と夢で会えない」


ポカンと間抜けに口を開けたダンテが、しばらくして意識を取り戻した。
「夢で人と会うなんてできるわけ無えだろ!どうしたんだ、アンタ」
知識も豊富で頭も良いはずの兄が、何を突拍子の無いことを言うのだ、この男。
ダンテはつい声を張り上げる。
「昔はあんなに夢で出会えていたのに、何故だ」
思い悩むその様は、あたかも学者や研究者…顔からしてもオカシイことを言っているなんて思えないというのに。
ダンテはそのギャップに頭を抱えた。
その様子をチラリと見てから、バージルは忌々しそうに口にした。
「お前の愛が足りないからだ」
言葉などが出ることはなく呆れたっぷりの溜息しか出てこない。
「愛があればお互い夢で会えるだろう」
「そんなことあるわけ無いだろ、大体俺はお前を愛してなんか無…」
「そうとなれば愛を確認するしかないな?」
言葉は言い終わる前にバージルのわざとらしい言葉によって遮られた。
いやらしく口端を上げて笑うバージルに、ダンテはヒッと体を竦める。
「な、やめろ!何言ってんだ!馬鹿野郎!」
がっしりと腕を取られ、両手は塞がれてしまう。
怪しく笑うバージルにダンテは嫌な汗が吹き出るのを抑えることができない。
「では、さっそく確認といこうか?ベッドの上でな」
不敵に笑ったバージル。
ダンテはサァと顔色を青くして、焦りながらその身を捩る。
「嫌だやめろって!バージル!!」
しかし、その抵抗は空しくその叫びごとベッドルームへと引き摺られていった。


愛が確認ができたかは、夢でしか知ることができない。
二人が眠れるならばの話だが。







   −終−







愛があればどこでだって…、そういうものだろう?

「夢の橋」と対になってます(読まなくても問題無いですが)




2005.1.12