光を請う
ダンテは大きな窓に寄りかかるように身を置いて、じっと外を見やる。
声の掛け辛い状況に、バージルは言葉を紡ぐことを止めて、剣を磨くことに専念していた。
それでも彼から離れることは無く、近くで。
隣良いか?、と毎回のように聞いていると、ダンテは「俺に聞くなよバージルの城だろ」と渋い顔で言い放った。
それとこれとは、とは思ったが彼なりの許しと解釈したバージルは、ダンテが本当に嫌な顔をするまで傍にいていいものだと思っている。
特別会話があるわけでは無かった空間でも、二人でただそこにいた。
「外はいつもこんな感じなのか?」
無言を守っていたダンテから聞こえた問いに、顔を上げる。視線は変わらず向けられることは無かったが、久しぶりに聞いたような言葉にバージルは隠れて安堵の息を吐いた。
「ムンドゥスが好き勝手している、今の状況ではな」
「晴れることは無いってのか?」
城の外から見える景色は、ダンテが初めて見たこの異世界と変わらず暗く渦巻いて、常に雲が空を覆いつくしている。灰色にも紫にも見えるその雲は、決して途切れることが無いように奥へ奥へと続き、今にも降り出しそうな色に世界を染め上げていた。
「こんな空だが、これでも普段より良い方だ」
「へえ」
太陽が恋しい、そうダンテは思った。
彼は決して昼間外に出る性質では無かったし、夜の方が好きではあったが、ここまで毎日朝でも暗いとやはり光が欲しくなるのだろう。
もう雲も、太陽も、あの眩しかった日差しもどれだけも見ていない。
一度、チラリとバージルを映した瞳もまた、外へ向けられてしまった。
バージルは寂しげに見えるダンテを見て、静かに苦笑いを漏らした。
「…光が恋しいようだな」
言葉に振り返る。
ダンテは思考をいとも簡単に読まれたことに、顔を顰めた。そしてバツが悪いのかすぐに視線を外した。
「そういうアンタは、バージル。光を取り戻したいとは思わないのか」
半ば八つ当たりのように、ダンテは問う。
こんな世界にいるのだから光を恋しく思わないわけが無い、それが例え悪魔の血を持っているバージルでも、同じ血なのだから思うはずだ。
そう踏んだダンテはどうなんだ、と挑戦的な眼差しまで向けている。
話を振られたバージルは、目を少し見開いたがすぐに考える姿勢を取った。
大したことでも無いのに、きちんと考えようとするのはもはやバージルの癖だとダンテはすでに理解していた。
深く考えるなと言っても無駄なことは経験済みなので、バージルを待つ。
「私は…そうだな」
何を言うのか。ダンテは横目で見ながら答えをただ待った。
バージルは一度深く沈んだ思考の中から浮き上がったかのように、顔を上げ、流し目のような形で見ていたダンテと目を合わせた。
そして、少し身を跳ねたダンテを見て仏頂面で笑んだ。
「私の光はもう戻ってきたからな」
意味がわからず、ポカンと間抜けに口を開くダンテ。
それを見て、バージルは口元だけでククと押し笑って、手元の剣に視線を移した。
その数秒後に、ダンテも慌ててくるりと背を向け体を窓の外に向けた。
言葉の中から答えを見つけたのだろうということは、バージルには十分すぎるほどにわかりまた少し静かに笑った。
光は、もう私の元に…。
−終−
そう、請うものはもう此処に、わかるかダンテ。
2005.12.13
|
|