労わり愛




コン、扉を叩く音が控えめに聞こえる。
ダンテは無意識に傍のアイボリーに手を触れていた。
「ダンテ、いいか…?」
向こうから聞こえてくる声に胸を撫で下ろす。この声には嫌と言うほど聞き覚えがあったからで。
「いいぜ、開いてる」
銃をくるりと手の内で回して素っ気無くそう応えると、控えめにゆっくりとドアが開いた。
姿を見せたのは予想の通り、兄バージルだった。相変わらず屋敷に居ようとも暑苦しそうな鎧を取ることは無いらしい。
「どうしたんだよ?何か用だったか?」
「いや、そういうわけでは無いのだが…」
バージルは言葉を濁して先を言わない。
向こうのバージルは無口と言って良かったが、こちらの兄はどうやら謙虚という言葉が似合う男らしい。
ソファに腰掛けている弟に向き合うように向かいの一人掛けに腰を下ろし、薄く溜息を吐いた。
ダンテはこういう改まったような場が苦手ではあったが、顰めた顔をしている兄を見て待つことに決めた。
しばらく経った頃か、バージルは重い口を開ける。
「私は、幼少の頃ダンテと離れ離れになった……お前もそうだったのだろう?」
「ああ、まぁ」
部下のシャドウから聞いたのか、とぼんやり思う。
城の主でもあり、みんなを率いる主でもある兄はどうしてもいない時間が多い。
初めてこちらで会った人型ということもあるのか、世話をしてくれるのが彼だからというのもあってか、ダンテはシャドウに心をよく開き、色々な話をした。
バージルにそんな話を言ったつもりは無かったので、彼から伝え聞いたのだと容易に想像できた。
ダンテは何のことは無く平然としていたが、逆にバージルのほうが酷い表情を浮かべていた。
「私には母がいたが、お前は一人だった」
「………そうだな」
こちらの母は、よく生きたらしい。今も生きているというのなら会いたい気がするようなしないような。
ダンテは長い間一人だった。
自分を護って逝った母と、悪魔に攫われるようにして消えてしまった兄。
そこから一人で生きていた。
逃げるように家を捨て逃げ出し、ずっと名を隠し生きてきた。
幸せでなかったわけじゃないが、不幸がそうさせたのだけが事実だった。
そのことをふと思い出し、苦笑を浮かべるしかなかった。
それは彼にしては不安そうで、痛ましい。
バージルはそんなダンテをじぃと見つめる。
それからゆっくりとその手を伸ばした。


「今までよく頑張ったな」


優しくダンテの頭を撫でる掌。
「え……?」
いきなりのことにダンテはただ目を丸くする。それから優しく、慰めるように髪を撫でるその手に不覚にも縋りたくなった。
これは俺の家族なんだ、とどこかで思う。
こんな年になって、誰かに縋るなんてしたことも無いし、格好悪くてできない。
ただ、グッと拳を握って撫でるその優しさに目を閉じた。
心情がわかったかのように、バージルは目を細めて顔を緩ませ、手を休ませることなく彼を労わり続けた。







   −終−







そんな風に、言わないでくれ




2005.11.26