影との話
温かい茶を持って部屋へ入ってきた男を見て、ダンテは窓に向けていた顔をそちらへ向ける。
テーブルに用意された茶の一式を見て、ソファへ腰を下ろす。
チラリと髪の間から男の様子を盗み見た。
男は静かにドアの横で、こちらの茶の時間が終わるのを待っているようだった。
「シャドウって言うんだってな」
ダンテは黒いコートに身を纏う長身の男に向かってそう言った。
名を呼ばれた男はピクリと少し反応を見せてから頭を下げた。
「はい」
生真面目そうな奴だ、とそんな印象を受ける男はこの世界に来て初めて会った人型の悪魔だった。
今は俺やベリルの面倒を見てくれている立場にある。
「銃、向けて悪かったな」
ここへ来たときに、ダンテは銃を向けた。悪魔なのだとわかっていたからだ。
しかし、今共にいることになるなんて想像はしなかった。
しかもこうして面倒も見てもらっている身としては多少なりとも申し訳無く思っても仕方ないだろう。
シャドウは細い目を少し見開いて驚いた風を見せたが、すぐに顔を戻した。
「いえ、当然の判断だと思われる、謝罪は結構だ、ダンテ殿」
少しも揺るがない答えが返ってきた。有難い言葉だが…ダンテは顔を歪める。
「その、ダンテ殿ってやめねえかな」
「何故?」
今度はシャドウが怪訝な顔をする。
ダンテは困ったようにガシガシと頭を掻いた。
「そんな敬称される覚えなんか俺にはねえし」
「しかし、そなたは盟主の弟君で…」
「盟主なのはアイツで、俺は関係無い、だろ?」
だから、名で「ダンテ」そう呼べ。
真っ直ぐな瞳でダンテはシャドウを見つめる。
そういうと、堅い表情のままシャドウは復唱した「ダンテ」と。
それに満足したのか、ダンテはにぃと笑う。
同じ顔をしているのにこうも違う笑い方をするのか、とぼんやりダンテを見るシャドウ。
少なくとも彼といて数年、こんなに幼く笑う主を見たことは無い。
「それより、シャドウ、少し話をしないか?」
ここへ座れとダンテはソファの隣を指した。
満足そうな顔と、その位置を見比べて、シャドウは微かに破顔した。
「喜んで」
そう言うと、テーブルに置かれた茶菓子をダンテは口に一つ放り込んだ。
軽い口調でダンテは口を開く。
楽しそうな彼を見て、シャドウは我らが盟主を思う。
盟主があれほど諦めずいつまでも探し続けた弟は、この人なのか。
そう思うと納得ができる気がした。
この笑顔は捨てがたいものがある。
此処へ来て初めての二人の茶会はゆっくりと進む。
シャドウは自分では気付かないほど、優しい顔をしていたことを知らない。
−終−
話してみたかった、それは同じかもしれない
2005.11.26
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