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          in jest 2




事の発端はファントムとの話をブレイド経由でバージルに知られたことにある。
ひとしきり話を聞き終わって二人きりになった後、バージルは難しい顔をして、こちらに向き直ったのだ。
そこで吐かれた言葉に、目を見開いた…同時に言葉を失った。
「ダンテ」
うー…あー…。
言葉になっていない声をしきりに繰り返して、何とかこの場をどうにかできないものかと頭を悩ませるがいい案はまったく浮かんでこない。
それよりも逆に追い詰められているような気がするのは気のせいだろうか。
「ダンテ」
嗜めるようにも聞こえる声音に、ヒクリと口元が引き攣る。
ただでさえその真面目という言葉をそのまま人に当てはめたような人物の真っ直ぐな瞳が苦手だった。
どうしても嫌だと言いにくい。
勘弁してくれよ…
そうは思っても、それを言えるわけもなく。
もう一度ちらりと相手の目を見てから。
「わかった、好きにしてくれ」
諦めの言葉を吐いたのはもちろん、俺が先。


「どうだ、ダンテ」
いい眺めだぜーなんて返す気力も無く、清々しい声が聞こえる。
後ろから…いや、むしろ下から。
脇腹辺りに手を沿えて、持ち上げられている。
この状態は非常に情けない。
大の男が…しかも兄弟…いや、双子であるバージルに易々と持ち上げられるなんて。
流石に、ファントムのように肩に乗せるなんてことはできないらしいが持ち上げるくらいなんてことは無いらしい。
声からは辛そうだったり、重そうだということは伝わってこない…どちらかと言えば何故だかわからないが楽しそうだ。
「バージル、もういいだろ?」
そろそろ下ろして欲しい、と告げる。
こんな至近距離にいて、聞こえないのか?
「バージル?」
返事が返って来ないのが不思議で、体を捻りなんとか後ろを振り返った。
その瞬間、体は更に宙に浮いた。
支えられていたものが無くなった、上に投げられたというのに一瞬に気付くわけも無い。
「……えっ」
声を上げたときには既にまたバージルの支えが差し込まれていた。
何なんだ。
疑問は、瞬きを何度もする頃にはわかってしまった。
同じ方向を、つまり後ろから持ち上げられていた体勢は一瞬にして向き合うように変えられていたからだ。
「ば、バージル…!?」
少し目線を下げればはバージルの顔が見える。普段とは逆に、兄が上目遣いになっているが。
素直に恥ずかしい。
あまり無い体勢、その近さは正直慣れない。
「顔が見えないのは物足りなかったからな、嫌か?」
「い、嫌じゃ無いんだけ、ど…」
どちらかと言えば困る。
「そうか、それならば良かった」
バージルが硬い表情が嬉しそうに薄く微笑むものだから、また困るとも言えず無理に笑うだけだった。
「ダンテ!」
また珍しく楽しそうな声を聞いたかと思ったら、両の腕が伸びてきて持ち上げている体勢から素早く抱き締められた。
ぎゅっと強く、しかし痛くは無いように気配りはされている。
腹と胸の辺りにバージルの頭が当たっているため、こちらは足が地に着いていないのが格好悪くてしょうがない。
「お、おい!」
小さく細やかに笑うバージルはとても楽しそうで、言葉を失う。
こんなバージルは初めてだ。
抱き締められたのももちろん初めて。
抵抗もできず、何も言えず成すがまま。
好きにされているので、手の行き場所にも意識も行き場所にも困る。
ぶらぶらとそのままにしておくのもなんだから。
嫌がられないかと思いながらも、ゆっくりとバージルの頭に手を添えた。
そうっと、頭を抱くように置くと、銀の髪はピクリと反応しただけで何も言わなかった。
ただ廻された腕に力が篭って、嫌がられてはいないのかと安心しながら…逆に嫌がらないことに困っている自分もいた。
思えば困ってばかりだな。
それでも、この兄がこんなに楽しそうなのだから、とそれさえも許してしまった。


そしてまたそれをブレイドに見られ、話は広がることになるのをこのときの俺はまだ知らない。







   -終-







アンタがそれほど楽しそうでいること、それこそが俺への Answer?




2011.3.26