in jest




広い庭を歩きながら、少しぼうっとしていたのが悪かった。
「痛ッ」
壁にぶつかったのだ。
「おお、ダンテ」
痛さに声を情けなく上げてしまった声に反応が返って来る。
すでにこちらから見ると壁だった大男が、グリンと首を下げた。
「何するんだ、この…痛ぇ、鼻思いっきり打った」
相手は半裸と近い格好だが、胸当てのようなものをしているところに、思いきり鼻をぶつけてしまった。こちらも気付かなかっただけに、勢いを付けてぶつけたので、予想外に勢いを加えて物凄く痛い。
もしかしたら赤くなっているかもしれないな。
痛みが和らぐように擦っていると、きょとんと見ていた現況の男はがははと笑い出した。
「すまんすまん、小さくて見えんかったわ」
このヤロウ!
睨んでいると、男はまた豪快に笑う。
「こりゃまたすまん、気にしていると言ってたなぁ」
グリグリと頭を撫でる……というよりも上から押さえられる。
まるでガキ扱いだ。
「ファントム……こういうのはやめろ」
物凄い圧力に負けないように睨み付ける。どうしても上目になってしまうこの屈辱さ。
自分の世界にも俺よりも当然デカイ男はいたが、ここは異常だ。
兄やその部下はみんな自分よりも当然のように高いし、ファントムはどう考えても普通の大きさでは無い。この男と並ぶと、本当に自分がガキに見える。
ただでさえ、兄も部下も俺を子供扱いするというのに。少し前の世界での自分とその周りの反応が懐かしく思えてくる。
「ふぅむ、そうか」
太い指の隙間から見たファントムは少しの間の後、ニヤリと笑みを浮かべた。
あ、嫌な予感がする。
そう思った後…いや、その瞬間、
「ぅ、うわ!?」
身体がふわりと浮き上がり、景色は一瞬にして空に近付いた。
自ら空に跳んだわけでも無く、その位置はキープされている。
呆気に取られていた意識がやっと追いついてきた。
少し下に目を向けると真っ赤な髪が見える、そして何よりもこの身体を支えているのは片手。そして座っているのは、どう見たってこの男の肩の上だ。
「何してんだ、オイ!」
覗き込むように前に身体を突き出してみる。
腕に支えられてはいるが人にしてもらったことの体勢に戸惑いは隠せない。
「高い高ーいってな!」
何言ってるんだ…。
「あのなぁ…」
口を開くとの同時にファントムがまた豪快に笑う。
奴が笑うと、それに合わせてこちらも揺れる。全ての体重を保っているのはファントムなのだ。まったく辛そうで無いのが更にムカつくのだが。
ぐらりと揺れて、不安定な位置なだけに近場にあった赤の中に手を置いて支えを取った。
頭に手を置かれたファントムはこちらに顔を向けてにかりを笑った。見上げられるなんて久しぶりのことのような気がする。
「よぉ、満足か。ダンテ!」
底抜けに明るい声が斜め下くらいから聞こえてくる。
「ああ、どうも」
自分が満足しているんじゃないか。
晴れ晴れしいファントムの声にもう反論する気も起こらずなすがままにすることにする。
いつもより数倍高い位置に吹く風はこの世界には珍しく、さわりと髪を撫でていく。
もうどうでもいいか、とそのまま赤い頭に残りの体重を掛けてやった。それでもまったく辛そうでも無いファントムを見て、小さく悔しがりながら目を閉じた。



紅茶の席で、
「ダンテ様、とても楽しそうでしたね…ファントムと」
偶然見られていたらしく、ブレイドに指摘される。思わず液体である茶を喉に詰めそうになってしまった。
熱くなる頬を手の項で拭うように押さえ、ギロリと睨む。
しかし全く効いていないのか、くすくすと尚も上品に笑うブレイドに興味を示すシャドウと、よりによってそこで調度通りかかったバージル。
やっぱりやめときゃよかった。
そう思っても、話がブレイドの口からどんどんと伝えられていっているこの状況では、もう既に遅い。
知られていく事実に頭を抱え、見られたくない顔色を隠すのが今の自分にできることだった。







   −終−







客人扱いor異世界なりの弟扱いorガキ扱い Come on Answer?




2007.2.21