晩餐までの話
ああ、面白かった。
ここに来て、暇を持て余していたらバージルの部下らしき奴に出会って、軽く試合までできた。
それに、「盟主」と呼んでいたところに否定してやると口をあんぐりと開けた間抜けな顔を見せた。
予想を裏切らない反応に大満足で、まだ事態を飲み込めていない二人を置いて中庭から去ってやる。
視線を重々感じながら去るときは笑いを漏らしそうなのをなんとか堪えていたのだ。
廊下を歩いていたときに、シャドウに呼び止められる。そこで溜めていた息を一気に吹いた。
シャドウはいきなり笑い出した俺にわけがわからないと言わんばかりに首を傾げたが、それについて問うことはしないで切り出す。
「ダンテ、宴の用意ができたとのこと。もう行けるか?」
「あぁ。わかった、行くか」
未だ笑いは止まらないが、用意したというのなら行かなきゃしょうがないだろう。折角だからなとシャドウの先を行くのに続く。
廊下の奥のドアを開けると、普通の部屋より奥に長く広い部屋に、どでかいシャンデリアの下には長いテーブル。その上には多大なご馳走と言われるものが並んでいた。
少なくとも普段食べているピザなんかよりよっぽど高いんだろうなと溜息を吐いた。
そのドアから一番遠い席にバージルは座っていた。シャドウと立つ俺を見つけて片手を上げて呼んだ。
困ったが、行かないわけには行かない。
「派手なパーティどうも」
「いや、時間さえあればもっと用意もしたかったのだが…すまないな」
「あ……ああ、いや、別に…」
皮肉った意味を、逆に捉えたのか謝られた。ただの冗談だし、普段の生活のことを考えればこれだって物凄いことなのに。
妙な空気に困っていると、バージルはすぐ隣の席を引いて座るよう指示した。
慣れもしない空気を振り払うように、自分らしくワザとどっかと腰を下ろす。
チラリとバージルを見たが、微笑ましく見つめられてまた困った。
おいおい、もう少し嫌そうな顔してくれよ。
そうは思ったが溜息を吐くだけで終わらせた。
「ベリルは?」
「用意が済み次第来られると言われたが」
「ふぅん」
シャドウと話していると調度ドアが開き、赤銅色の女性が入ってきた。
つい眉を寄せてしまったのはそれが見たことも無いものだったからだ。
ふわふわと揺れていた髪を上で一つにまとめ、肩出しのグリーンのドレスを見事に着込んでいた。
気合入ってるな、オイ…。
シャドウを目を合わせると、アイツも困ったように笑った。バージルはというと特に無反応。
照れたように入り口近くで突っ立っていたベリルは、近寄ったシャドウにエスコートされ、席に着いた。
しばらくもしない内に、続々と人が続いて入ってくる。髪の毛や容姿や年齢はそれぞれ違うが、イケてると言える男ばかりだったのが素晴らしいことだ。
そうして次々と人は席に着くが、先程会ったはずの二人はまだ来ない。
あれだけの腕と親しい様子を含めてバージルの直属部下だと思ったんだが。
「皆、よく集まってくれた。」
バージルが堅苦しい挨拶を始めるとうるさかった部屋はシンと水を打ったかのように静まり返った。
「急に集合を掛けることになって悪かった…実は気付いている者も多いと思うが」
「遅れてすまない…」
バタンと大きな音を立てて転がり込むように入ってきたのは二人の男。
見覚えあるその顔につい覗き込むように顔を向けた。
「いやあ、色々あってなぁ」
黒髪のマスクの男の恐縮な態度とは反対に、赤髪の大男は頭を掻きながら笑って堂々と入ってきた。
バージルは少し苦い溜息を吐くと、空いている近くの二つ分の席を指した。
「まぁ、良い。席に着くと良いだろう」
二人は席を確認したその視線のまま、こちらを向いて止まった。
「よぉ」
笑いを堪えながら、手を挙げてやると、二人は同時に息を呑んだ。
「「あああぁぁ!!!」」
大声を出した二人に、思わず笑いを吹き出す。まったく期待を裏切らない。
テーブルを前にする者、そして兄でさえ意味がわからずきょとんとして見せた。
−終−
可笑しいものが多くて助かるな、いや、本当に。
2006.1.1
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