夜も更けに更けた頃。
二人でベッドの上でまだ荒い息を落ち着けていた。
情事の間に揉まれ、押し潰され、濡れに濡れてしまったシャツがベッドの隅でくしゃりと丸まっている。
ダルイ体で精一杯手を伸ばしそれを取った。
「……また服ダメになったか」
酷い有様でこのまま来て帰れるなんて到底思えない。
こういうことは一度や二度では無かったが。
「すみません、久しぶりだったので」
溜め息を吐いていた僕に、隣で竜崎が恐縮そうに頭を掻いた。
「いいけどね」
くすりと笑ってシャツをベッドの下に落とした。
僕だっていざとなると余裕なんて無くなる、竜崎のせいだけでは無い。
彼が突然体を起こし、クローゼットへ真っ直ぐ進んでいった。
離れるとあんなに熱かった体もすぅと冷えていく。
まだ熱を感じていたかった僕はムッと眉を寄せた。
恨めしそうに上半裸の竜崎の後姿を横目で見ながら、目を伏せる。
「いつも悪いと思ったので月くんのために服を用意しました」
「僕に?」
月くんのため、という台詞に、ベッドに押さえつけていた顔を上げる。
竜崎はペタペタと歩みよって、腰掛けながら箱を手渡した。
「はい。受け取ってください」
薄めの白い箱。
中身はダークグレイのいい生地だとすぐにわかるようなシャツだった。
そのデザインはシンプルながらもシャレている。
竜崎の趣味では無い、僕のために選んでくれたんだと思うとジンとしてしまった。
「着てもいい?」
「どうぞ」
勧められるままに袖を通す。
袖やボタンが一度も引っかかることなく体は服に収まった。
「ピッタリだ」
身長さえ教えたことは無かったのに、と驚きの声を上げると、竜崎は満足そうに口の端を上げた。
「貴方の体は知り尽くしてますから」
キッパリ言い切る彼に呆気に取られる。
「……何か嫌だな」
眉を寄せてクスリと笑いを漏らした。
「やっぱり似合いますね」
呟いた竜崎が、ゆっくりと顔を寄せる。
僕はそれに答えるように目を閉じた。
長い長いキスの後に二人で額を合わせて熱い息を吐く。
「気に入りました?」
「うん、ありがとう」
うっとりとした声で返す。
竜崎が僕のために服を選んでプレゼントしてくれたということが嬉しかったから素直に礼が言えた。
「そうですか、では」
え、と返事をする前に身体はベッドに沈んでいた。
そしてすばやくシャツに手を掛けている。
「ちょ、何するんだよ竜崎。せっかく着たのに…!」
器用に肌蹴られていく自分に唖然となってしまう。
焦りながらもなんとか圧し掛かってくる身体を押し返す。
竜崎は何でも無いかのように、キスを降らせている。
「月くん恋人に服を贈るというのは脱がせることを前提にしてるんですよ」
贈られた服を、贈った本人に脱がされながら「じゃあ着る必要なんて無かったのでは」とぼんやりと思う。
しかしただ熱に任せて揺られる。
真新しいシャツは二人の間で、皺を刻んだ。
−END−
限定小説1回目。
ふたりの間にあるものが必要ですか。
2004.10.16
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