手首がズキズキと痛む。
薄皮はとうに削げ落ち、赤みは常に引かない。
まだ赤いときは良い方だ。
最近は青色や赤黒い筋に何本か重なって、重い銀が皮だけで無く肉までもを傷つけてくる。
竜崎はいつも僕がいることを忘れたように自由に行動する。
だから余計に痛みを増やしていくのだ。



僕と繋がっている手錠の腕を伸ばしてテーブルのケーキに手を伸ばす。
ズキンと酷く痛んだ。


「竜崎、手錠痛いんだけど……」






苛々もしていたんだろう。
いつもなら決して言葉に出さない言葉を口にしてしまう。
腕を伸ばしたままの体勢で止まって僕の目をじっと見つめてくる。
それから僕の手の銀色に視線を移して、目を細めた。


「すいません、我慢してください」


何事も無かったかのように行動を再開した。
そうだ、あの監禁よりマシじゃないか。
感謝はすべきでも、文句を言うべきでは無い。








「………そうだね、ごめん」

ズキンとまたひとつ赤黒い筋が増えたような気がする。
あまりの痛みに冷たい汗が伝った気がした。
ふいに出そうになった声を、唇を噛むことでひたすら耐えた。
















「月くん」


深夜、ホテルの捜査本部の人間が帰って二人になった頃。
のっそりと立っていた竜崎が話掛けてきた。

「おかしな行動を取ろうなんて考えないでくださいね」

「え?」

何のことだ、と質問する前に竜崎は持っていた鍵で僕の手錠を外す。
ぽかんとしている間に、逆の手首に付けられた。
この付け方だときっと竜崎は行動しにくいはずだ。
そこまで迷惑は掛けられない。
そんな僕の考えていることがわかったのか、竜崎はちらりと見て視線を銀に戻した。


「薬、塗るくらいなら大丈夫です」


後で戻す、ということを前提だということだろう。
それはそうだ、折角不便ながらも慣れてきたものを途中で変える時間ロスはしたくない。
しかし、薬というのは?
そう思って彼の手元を見ると、ゆるく持たれた小さな小さな丸い入れ物。
いつの間に・・・・?
そういえば夕方、彼に付き合ってドアの前まで行った時、誰かに会っていたようだった。
Lという存在だから深く聞いてはいけないだろうと思って聞かなかったが。
まさかその相手に薬を?わざわざ?天下のLが?





「……………ありがとう」





なんだかとても嬉しくなって、素直に言葉が出てきた。
丁寧に傷に薬を塗ってくれている竜崎。
ちらりと覗いたその顔は、少し笑ったような困ったような顔をしていた。















   −END−


なんだかとてもうれしいんだ。

2004.10.02