独占



何よりの一番は、彼といる時間。
それはどんな書物を見る一時より、どんな難解なパズルを解く一時より大切で。
誰にも興味の無い、自分が唯一心を揺さぶられる相手だった。
生きている、と思える時間。
離れている一分さえも勿体無く、彼がいるだろうあの部屋へ向かう。
扉を開けると金髪の後ろ姿。
きらきらの髪が映える、黒の服を好む彼。
いや、どんな格好をしていたとしても間違えない自信はある。
見間違えるわけも無い存在。
歓喜。
しかし踏み出そうとした足はドア外で静止したまま。



「誰それ」



疑問符がそのまま口を付く。
そこに見えるのは、望んだ彼だけでは無かった。
長い赤髪を巻いた女。
仲良さげに笑う彼は、こちらの声に振り替える。
嬉しそうに、大きな瞳を緩ませて、頬を上気させて。
「ニア!僕、彼女できたんだ」
隣りの女が恥ずかしそうにお辞儀する。
「…そう」
あんなに待ち遠しかった気持ちにすぅと風が吹きぬけていく。
「何だよつれないな」
何の感情も含んでいない冷たい返事に、メロは口を尖らせる。
そして隣のその人間に歯を見せて笑った。
椅子に腰掛け、手にしていた書物を乱暴に読みあさりながら。


薄く、二人を見つめていた。
いや、メロと、もう一人を。






じゃあね、とお互いが手を振り合って別たれる。
同じ施設にいるのに離れるのを拒むような態度の女。
最後は嬉しそうに廊下を小走りで駆ける。 廊下の曲がり角。
見送るメロの視界から消えるところを狙って、影の壁に追い詰める。
乱暴にぶつけさせたからか、多少音が鳴ったが、そんなことは気にしない。
「お前なんかがメロの女?恋人?」
怯えた顔が滑稽だ。
力を込めて掴んだ肩は小刻みに揺れて止まらない。
見開いた目には、こちらの瞳が映っている。
「消えろよ」
え、と声が小さく漏れた。
それすら苛立ちの要素になる。
「消えろ。メロの前からも、施設からも」
NOなんて言わせない。
決定権などお前には初めから無いのだから。
暗がりでよくはわからないが、恐らく顔色の悪い女は涙を溜めて何度も大きく頷く。
力を緩めてやると恐々、目を避けるように逃げていく赤毛。
その後ろ姿が消えるまで目を細めて、けしてそれを緩めることなく見やった。








「ニア、聞いてよ」

「あの子いなくなったんだ、何でだろ」

「これってフラれたって言うのかな」

「今笑っただろ!ニア!!」


あぁ、素晴らしい時間。
君が傍にいて、視線を独り占めして。
メロ、君との時間は誰にも渡さない。



メロは私だけのものだ。
















   −END−


愛しい時間。ふたりだけ。

2005.6.18