ジントニック
友情を深めるためにお酒でもどうですか?
あのLにそう言われて、心底驚いた。
酔わせてキラだと吐かせるつもりか、それともヒントを掴むつもりか。
色んな方向から考えに考えた結果、笑顔を作りいいよ、と答えたのだった。
Lからの申し出を断るなんて選択肢は端から無かったのだが。
「竜崎、平気か?」
数時間後、予想とは外れてそこに出来上がっていたのはLの方だった。
いつもの座り方はまったく変えず、ただ頭を背もたれに預け、ぐたりとしている。
テーブルの上にはいくつもの缶とビン。
僕も酒に強いというわけでは無かったのだが、Lの飲む量は半端無かった。
スピードがとにかく早い。
まるで水でも飲むかのように次々にアルコールを開けていく。
これだけ飲んでいれば酔いも回るというものだ。
回復する様子を見せないLに、溜息が漏れる。
こんな状態では探る物も探れない。
「じゃあ竜崎、僕は帰るからな」
もう一度大きな溜息を吐いて、コートを片手にソファから立ち上がる。
今から帰るとなるとタクシーになるだろうが、仕方ないだろう。
そんなこと頭の端で考えていると、腕に手が掛かっていることに気付く。
辿ると、それはもちろんひとりしかいなくて。
「………帰らないでください」
預けていた頭を今度はうつむき加減に落として。
珍しくハッキリしない口調で呟く。
「竜崎?」
よくわからない真意に名前を呼ぶ。
それには反応を示さず、握られている腕がぎゅと力を入れられた。
「帰らないでください、月くん」
弱弱しく、Lらしくない。
「……酔ってるのか?」
「いいえ」
声とは反対に揺ぎ無い返答。
しかし、そのぐらぐらと揺れる様子は正常とは言え難い。
「酔ってるよ、竜崎。休んだ方がいい」
「いいえ」
まるで子供だ。
意外な一面を見てしまい、動揺を隠せない。
「竜崎」
「行かないでください」
向けられた視線は少しも揺らがない。
じっと向けられる瞳は真剣そのものだ。
「……わかった、ここにいる」
帰ると言っても、きっと聞き分けないだろうと踏んだ。
仕方ない、ここはホテルだろうし寝る場所はいくつもあるんだ。
ここにいても支障は無いだろう。
元の場所に腰を降ろすと、Lはあからさまにホッとした顔をした。
「ありがとうございます」
緩んだ笑顔を見せるLに、なんだかこちらが悪いことをしているようで何故かいたたまれない。
よくわからない思いを吹っ切るように、まだいくつも残るアルコールを口にした。
嬉しそうに、また酒を口にし始めたL。
彼が小さく声を立てて笑った気がして、横目で見やるがそんな様子は無い。
僕も、酔ったのか。
どうせならばもっと酔ってしまえ。
手元の高いアルコールを喉に押しやった。
−END−
その高い酔いに騙されて。
2005.5.14
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