少年恋事情



先程メロにとってこれほどにも無いくらい恐ろしいことが発したのはニア。
彼は、いつもと変わらず緊張感も無しにメロを見つめている。
メロはというと大きな目をいつもよりも更に見開いて、その白い顔色を蒼白というまでに変え、固まっている。
「メロ…?」
伸べた手を、意識を取り戻したメロはいきおいよく払い落とした。
「何だよ、何なんだよお前」
じりじりといつのまにか近寄っていた距離を離すようにメロは後ずさりする。
ニアもニアで、懲りていないのか詰めていく。
「僕に何を求めてるんだ!」
目を何度か瞬かせて、ニアは小さく冷静に呟く。
「…お互いが相手を必要とし、求め」
「言うな!!」
教科書でも読むように言葉を並べるニアを叫んで静止する。
そうでなければ更に恐ろしいことまで聞いてしまいそうだったからだ。
なるべく冷静に、息を整えてからギッと睨みつける。
「悪いけど応えられない、諦めろ」
「応えられないかどうかはまだわからないでしょう」
落ち着いた様子で二人の距離を縮めるニア。
整然と構えているこの男はこんなにもポジティブだったか。
それともただのマイペースで自分勝手な思想を持っているだけなのか。
「わかる!無理!無理に決まってる!」
全力で否定を現す。
誤解などひとつもさせないように。
「大丈夫です、優しくします」
「何の話だ!!」
何故解ってもらえないのか。
メロは冷や汗が吹き出るのをどこか冷静に感じている。
いつの間にか、あんなに普段広く感じていた部屋の壁が背中に。
目の前にはニア。
お前はトロい、と罵ったこともあったが、今コイツから逃げられる気がしない。
これほど恐怖を感じたことがあったか?いや、無い。
ニアの手が、頬に触れる、それさえにも過敏な反応を示してしまうメロ。
けして快楽のためでは無いとわかりつつもニアはどこか嬉しそうだ。
形の良い品のいい顔が徐々に近付く。
まるで蛇に睨まれた蛙だ。
声さえも出せず、精一杯の拒絶を現すように視界をぎゅうと閉じた。



部屋にガチャリという音が響く。
「ニア?メロ、どうしました?」
ドアから入ってきたのは老人。
見慣れたその彼が、まるで救いの神だと言わんばかりにメロの表情が崩れる。
「ろ、ロジャー!助けてロジャー!!」
緊張が解れてか、いきおいよくニアの元から飛び出し、老人へ縋り付く。
いつもの彼からは想像も付かないその様子にロジャーも驚きを隠せない。
「…チッ」
意味もわからず慌てる老人と、恐怖で縋り付くメロ。
両方ともが必死で、彼の舌打ちには気付くことはなかった。

















   −END−


本気なだけに恐ろしい。

2005.5.3