繋ぐ



「月くん、手を繋ぎましょう」


竜崎が突然そんなことを言い出すから、口がつい間抜けに開いてしまった。
確かに彼は何を考えているか掴めない。
不服だが、他の人に比べてやっかいな存在だということはわかっている。
しかし、今ほど何を言っているかわからないときがあったか。
「どうしました?月くん」
「……いや」
どう返答したらいいのか
「竜崎は冗談が下手だな」
「冗談?何のことですか?」
今のは無かったことにするということか。
自分の判断ミスに唇を噛み締める。
「…何でも無い」
失態を晒すのが嫌で、顔を背ける。
「そうですか…」
竜崎は何も気にしていないのか、さらりとそれを受け流した。
その態度にすら苛立ちを覚えてしまう。
しかし、ここでまた怒りを表してしまったら負けだと、ぐっと気持ちを抑える。
「ところで、もう一度言いますが、手を繋ぎましょう」
その発言は無かったことにしたのではなかったか。
「……だから、何だその冗談は」
今度は問い詰めてもいいだろう。
眉を顰め、不機嫌さを隠す事無く問うた。
「ですから冗談では無いです」
目を見開いてしまう。
冗談ではないとはどういうことなのか。

「手を、繋ぎましょう」




何で、とは何故か聞くことができなかった。
それは既に竜崎の言葉が疑問符では無かったからか。
否定する台詞も肯定する台詞も口から出てこなかった。
それを見て、肯定に取ったのか、手のひらは薄い体温に包まれていた。
何か他に意味があり、試されていたのかもしれない。しかし。
そこに目を向けると不健康そうな色の手。
「月くん、好きです」
いつものキラに対して意見を伸べるそれと同じように。
まるで何でもないことのように耳に聞こえた言葉。
「また、下手な冗談を」
「…そうですね」
何で嬉しそうに笑っているんだ。
わかってる。
冗談じゃないことくらいわかる。
お前の顔を見ていたら。
そう言ってやるのも癪で、悔しくて。
ただ黙って繋いだ手を強く握ってやった。


隣のその男は、また腹が立つくらいの顔で嬉しそうに笑った。

















   −END−


好きなんて、言ってやるか!

2005.2.27