ホテル一室の捜査本部。
資料を捲る音と情報のためのテレビの音しか聞こえないその張り詰めた空間に気の抜けた声が聞こえた。
『月〜〜ライトライト!!』
後ろで聞こえるその声は、自分にしか聞こえない声。
外では話しかけるなとあれほど言ったのにと溜め息を漏らす。
(何だよ、リューク。話しかけるなって言ってるだろ)
『見ろ見ろ!このテレビの奴のマネ』
嫌々ながらも見ろ見ろとせがむのでしょうがなくチラリと振り返ってやる。
そこには今まさにテレビに映っている流行りの芸能人…とその真似をしている死神。
『似てる似てる?』


          笑顔








「プッ」
なんて間抜けなんだろう。
死神がモノマネをしている。
似てる似てない別として、その顔その体での真似はたまらなくおかしい。
「どうしました?夜神くん」
不振に思った竜崎が話しかけてくる。
他の刑事もきょとんとした目で見てくる。
「い、いや…なんでも」
いきなり笑い出したんだからおかしいに決まっている。
なんとか笑いを抑えようと、口を押さえて死神に話しかける。
(やめろってリューク。やめろ)
こちらが抑えようとしているのにも関わらずリュークは馬鹿なことをやめようとしない。
それがまたツボに入ってしまって、笑いが止まらない。
「ハハッ」
「夜神くん?」
驚いた表情を隠しきれていない竜崎と、顔を見合わせて首を捻っている捜査員。
「あ、あぁ……ゴメ…ッ!フフッ」
なんとか落ちついたときには、うっすら涙を浮かべてしまっていた。
息が詰まるかと思った。
「何を笑ってるんです?」
「思い出し笑いだよ、ちょっとね」
思い出し笑いという理由は苦しかったが、仕方ない。
目の前の死神がおもしろかったからなんて言えるわけが無いんだから。
竜崎は考え込んでいる様子で自分の親指をじぃと見つめていた。
「久しぶりに笑った顔を見ました」
ボソリと呟いた声は、テレビの音しか聞こえない部屋ではよく聞こえた。
「最近は苦しそうな顔をしていましたから」
「そうかな…」
そんな自覚は無かったけど、確かに言われてみれば作り笑いや愛想笑いじゃなく笑ったのは久しぶりかもしれない。
(知っててやったのかリューク?)
問いかけには答えようとせずに、テレビにかじりついている。
(まったく……)
そんなところもまたおかしくて笑ってしまう。
竜崎はムッとした表情をしていた。
「それはそうと、夜神くんを笑顔にさせたのは誰なんです?」
イラついているような口調で静かに問う竜崎。
「は?」
聞き返してしまったのはその声が聞こえなかったのではなく、意味がわからなかったから。
「私がさせたかったのに……許せませんね」
ギリと親指の爪を噛む心底憎そうな声を出す。
内心、さすが竜崎鋭いと思ってしまったがそれをわざわざ顔になんて出すヘマはしない。
「いや、だから思い出し笑いだって言ってるだろ?」
呆れた声で言ってやると、あの真っ黒な目をギョロリとこちらに向けてじっと見つめてくる。
「だとしてもです。」

ぽかんと間抜けな顔をしてしまった後ろで、リュークが笑った気がした。










   −END−


何言ってるんだ、コイツは。
なぁ、リューク?

2004.09.06