カラー
無意識に辿るのは彼の色。
人が行きかう町並み。
何も知らず極自然に日常を楽しむ人達。
青山の監視ビデオを繰り返し見ているうち、ふと目に付くそれら。
小柄な高校生。
色白な肌を短いスカートで惜しみ無く見せている。
否。彼はもっと白い。
ふわふわのロングヘアーの女性。
きらきらと光る秋色の髪。
否。彼はもっと柔らかな栗色。
誰をも魅了するような色素の薄い茶。
流れるような綺麗な切れ目の瞳。
否。彼はもっと灰に近い意志の強い瞳。
引き寄せるのか、寄せられたいのか。
潤いを保たせている真っ赤な唇。
否。彼は人工的では無い薄い紅を引いたような口元。
きらりと輝く先。
マニキュアを塗られた重そうで派手な長めのきらめく爪。
否。自然のままでも十二分に美しい薄めの桃。
首元に付けられた赤い赤い印。
否。彼はもっと。
もっともっと……
あぁ、そうか。
ここには夜神月はいない。
「竜崎」
聞こえた声に沈みかけた意識が浮上してくる。
ただ一声なのに現金なものだ。
「…月くん」
忘れるわけが無い彼の声。
きっとその栗色の髪を保ち、強い瞳を少し細めているのだろう。
振り向くとそこには予想した通り。
「いいタイミングです」
思わず上がる口元を隠しもせず、彼に近づく。
彼の聡明な頭が状況を理解ができていない内に、距離を縮めてしまう。
「ちょうど貴方が欲しくなりました」
細い指を取り、桃の指先にキスを送る。
そして驚きで緩んだ唇を奪いながら、彼の白を晒す。
抵抗などしている暇が無いくらいに彼を翻弄してやる。
そして雑踏の中で見つけられなかった色を、全て腕に収める。
誰も敵わない夜神月という存在。
私だけの新たな色を付けるのだ。
−END−
パレットに新しい色を。
2005.2.19
|
|