アンバランス



手錠に縛られた生活にもとうに慣れた。
そして竜崎との情事にも。
頭の良い人間は好きだし、こんなに長時間一緒にいても竜崎には何故か嫌悪感は沸かなかった。
それは抱かれても。
明日はついにキラを追い詰める、そんな日でさえ竜崎は僕を求めた。
乱れたベッドの上で二人余韻を楽しむ。
竜崎は何がおもしろいのか僕をずっと見ている。
こんなときでさえ監視か、といつもなら呆れるが、今日に限って切なく胸を締める。



「好きだよ、竜崎」



「……月くん?」
その黒いぎょろりとした目を更に開いている竜崎の顔を見やる。
「どうしたんですか?」
どうした、と言われても。
普段言えと言われても断固として言おうとしない台詞なのはわかっている。
口が勝手に動いた。
人間は脳で指令を出して言葉を口にすると言うが、そんなものを感じさせず。
そう、本当に口がひとりでに動いたように。
理解ができていないのに、確信できているという妙な自信。
そのアンバランスな状況に不安が押し寄せる。
あぁ、ただ好きだと。
「今言っておかないと…」

二度と言えないような気がしたから

「今言っておかないと?」
目を細め、言葉を繰り返す。
理解ができない時にする竜崎の顔が見え、口元が緩む。







「明日死ぬかもしれないからね」


最も僕らしい言葉。
これも嘘ではない。
ついに明日、決まるのだ。
本気のような冗談にも彼は顔を崩さない。
「そんなことさせません」
真剣な眼差しのままキッパリと言い放つのはやはり上に立つべき人物なのだろう。
「私が貴方を守りますよ」
きっとこの言葉は嘘じゃない。
しかし守られるものでも無いこともわかっている。
信じてないわけではなく、そう確信で。


僕にはわかる。

死よりも近づいて来ているもの。



好きだよ、竜崎。



















   −END−


僕が近づいてくる。
僕が、近づいている。

2005.1.23