叶わぬ望み
学校の帰り。
一護と二人で歩く夕刻の帰路に、一つの影が伸びた。
影を追うように先を見ると、見慣れたといえば見慣れた人影が一つ。
「どぉもー!」
いい年をした男が底抜けの明るい声で、一声を上げた。
「浦原…」
「珍しいな、どうしたのだ」
いつもの帽子に羽織、緑に統一した格好と下駄の男。
夜以外滅多に外に出ない怪しい店の店主を見掛け、そう呟いた。
「ちょこーっと用がありまして」
そう言うとチラリと一護へ視線を移す。
それにつられて私も一護を見ることになる…が、当の一護はと言うと、浦原の方を見ない。
焦れたのか、カラコロと音を鳴らして近付く。
「くーろさーきサン?」
浦原が袖元から手を出して、一護の肩を軽く叩く。
一護は不機嫌な顔を隠そうともせず、いきおくよくその手を振り払った。
「……んだよ。触んな気色悪ぃ」
「アラつれない」
その様子はどう見ても仲が良いようには思えない。
いや、浦原が歩み寄ろうとしているのに一護が突き放しているように見える。
実際そうなのだろうけれど。
「……何だ。貴様ら付き合っているのでは無いのか」
「な……っ!」
一護の顔がサッと赤くなる。
見解が間違っていたということでは無さそうだ。
始めからそういう態度をしていれば少しは二人の恋仲もわかるだろうに。
「なのに何だこの雰囲気は」
妙に鋭い視線が浦原に突き刺さっている。
明らかに責めるような視線に、更に口を開こうとしたとき、体がふわりと浮いた。
「ハイハーイ。行きますよン、朽木サン!」
見る景色が変わった、それは自分の意思では無く。
足は宙に浮き、腰の辺り違和感が…つまり、脇に抱えられている。
「う、浦原!貴様何をするか!」
人をなんだと思っているんだ、と続けようとした口はもう一方の手でふさがれてしまった。
「じゃあ、また!黒崎サン!」
そう言い残すと、下駄を鳴らし、元来た道へいきおいよく走り出す浦原。
抱えられて走られては逃げようも無く諦めの息を吐いて、小さくなっていく一護をずっと見ていた。
「用とは私にだったのか?」
しばらく行ったところで、無言だった浦原に話しかける。
体勢として抱えられているのは腹が立つが、仕方ない。
「ええ、先日の虚のことで…」
一護へ用があるのかと思っていた。
わざわざ帰り際に迎えに来るだなんて、恋人への用事だと思ってもおかしくないだろう。
「一護、妬くのでは…?」
「無いっスよ。無い無い」
あっけらかんと即答する浦原。
「そんなものか?」
「ええ。黒崎サンがやきもちを妬いてくれるなんて…そんな嬉しいこと」
叶わぬ望みっスよ、と浦原が明るく…どこか寂しそうな含みを持った声で言う。
「ほう……そんなものか」
呆れ混じりの言葉に、浦原は何も返しては来なかった。
「んだよ、バーァカ」
どこからか声が聞こえた気がしたが、浦原には言わなかった。
−終−
叶わない、なんて誰が言ったことか。
2005.08.30
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