欲望






浦原と付き合うようになって、もう幾つも経つ。
浦原に優しく撫でられるのも好きだし、抱きしめられるのも好きだ。
「……っは…浦原…」
それにキスも。
「大丈夫っスか?」
「…ん。」
深いキスで乱れた息を優しい口付けでゆっくり整えてくれる。
目蓋に、鼻先に、耳朶に、頬に。
甘くて、優しいキス。
こうして過ごすのが気持ちいいことなんだってわかったのは浦原と付き合ってから。
人と触れ合うのが嫌いだと思ってたのが嘘のように、今はいつまでもそうしていたいと思う。
でも俺も健全な男なわけで。
「浦原……」
浦原も俺も男だけど、今より先があるって知ってる。
きっと浦原とだったら何だってできるし、浦原がくれるものだったら何だって気持ちいいと思える。
今日は土曜日。
明日は学校は無いし、浦原だってそれをわかってくれてるはずだ。
これでも照れを我慢した精一杯の誘いのつもり。
もう次のアイツが欲しい。
浦原だってそう思ってくれてると思いたい。
「……浦原」
じっと見つめると、優しく頬を撫でてキスをくれる。
甘い甘い瞳にクラクラする。
もうずっと、一緒にいたい。
だらりと垂らした手を、大きな背に回そうとゆっくり上げたとき。
ボーンと部屋の時計が遠くで鳴った。
その音につられたように俺を映していた目が時計に取られてしまう。
それに少しムッとしているとそれに気付いたのか浦原が薄く笑った。
「もう七時っスね、お家帰んなきゃ」
柔らかく発せられた言葉は望んでいたものでは無い。
「え…」
今から帰ってもどうせ怒られるんだとか。
親父には言って来てあるんだとか。
色々言おうと思ってた理由が頭から吹き飛んでしまっている。
言葉がうまく出てこない。
「あ…でも…」
「お父さん門限に厳しいんでショ?」
今日は泊まろうと思ってたんだ。
ずっと一緒にいたいと思ってたんだ。
「そうだけど…でも」
門限とかそういうことじゃない。
一緒にいたいんだと、目で訴えると浦原は困ったように軽く笑んで。
「明日、また会いに来てくれます?」
「あ、お、おう!…もちろん!」
寂しさを含む声で、会いたいと告げる浦原に焦りながらこちらも会いたいのだと告げる。
意気込んでしまった言葉に、一瞬目を見開いたが、その後小さく笑われて顔が火照ってしまう。
落ち着いている浦原を見ると余計に恥ずかしくなる。
浦原はこちらの手を取って、
「待ってます」
綺麗に笑うから。
何も言えなくなる。
ただ、小さく頷いて浦原の意見を通してしまう。
結局今日も一緒にいるという選択肢は無くなってしまった。



少し名残惜しながら、履き慣れた靴に足を通す。
いつものように家の外まで見送ってくれる浦原。
今までに何回も見た彼の姿だ。
外は夕日に包まれてオレンジに染まっていて、二人の影が伸びる。
人気がいないとわかっていて、額に掛かった髪を避け、軽くキスを落としてくる。
不満に思うこともあっても、結局は彼にほだされてそれでも案外幸せなのだ。
「また明日。黒崎サン」
「明日…浦原」
軽く手を振って、家への道を歩き出す。
彼の姿があの角を曲がって見えなくなるまで、目に映しておきたくて。
何度もチラチラと後ろを振り返れば、その度に浦原は手を振ってくれる。
寂しいけど嬉しくて。
早く明日になれと、強く思って走り出した。
空は藍に飲み込まれ、一つキラリと星が光りだす。
オレンジが藍になって、闇に飲み込まれても、今度は二人でいたい。
浦原も同じ気持ちでいてほしい。
いつか今じゃなくても、近い未来に。















   −終−






ときにたんじゅんで、だいたんだ。



2005.08.28