絵の具






今日は日曜日。
折角家に遊びに来てくれたというのに、彼の恋人は先程から庭と紙を睨めっこ。
邪魔するなと言われれば何もすることは無く、ただぼんやりと過していた。
空いた時間も彼が同じ空間にいるというだけで暇だとは感じなかった。
しかし筆を片手に首を捻ったり、唸ったりしているのを見ると気になるというものだ。
そろりと近付くと、ガシガシと髪を掻くその後ろから手元を覗き込む。
「アラ。個性的な絵」
そこには真っ白い紙に……恐らく我が庭なんだろう。
いびつな線が木や土や隣の屋根を象っている。
「んだよ…馬鹿にしてんだろ」
「いいえ、そんなこと。ただ凄い色使いだなと思いまして」
実際の庭とは異なる鮮やかな色。
木に茂る葉は緑だけでなく、黄や青やオレンジに彩られ。
土も、空も庭を囲う柵でさえも、水色、ピンク、赤、黄緑。
「うっせえなー…美術は苦手なんだよ」
少し顔を赤らめて眉を寄せる黒崎サン。
「まぁ、ある意味芸術的スよね」
「もう!いいだろ!」
腕で隠してしまった絵。
こちらに見せないようにしっかりしまい込んで、向こう行けと目で睨まれる。
「ハイハイ」
これ以上機嫌を損ねられては後々大変だ。
先程までの位置に付き、壁に背を預けた。
紙に乗った綺麗な色。
沢山の色に溢れてキラキラキラキラ。
きっと彼には世界もこんな鮮やかに映っているんだろう。
色味の少ないこの目で、彼の鮮やかなオレンジを羨むように眺めた。















   −終−






その色で自分の色さえも塗りつぶしてくれればいいのに。



2005.06.06