ゴミ箱
「おや。入れ違っちゃいましたか」
今日は仕入れで家にいることができなかった。
いつも少年が学校の帰りに寄ってくれるとわかってはいたことだったが、仕事なのだから仕方ない。
案の定帰って来た居間には誰も居らず。
その代わりと言ってはなんだが、卓上に紙切れが一枚。
ノートの切れ端なのか、歪んだ形の小さな紙。
名前など書かれて無くても誰の字であるかはすぐにわかった。
ひょいとそれを摘み上げ、鉛筆で書かれた文章に目を通す。
短い単語と単語の組み合わせはシンプル過ぎてたった何秒かの間に何度も読めてしまう。
用件はわかった。
一人重く無い溜息を吐くと、そのまま近場のテッサイの手によって編まれたゴミ箱を引き寄せる。
そこで手がピタリと止まる。
伝言を伝える機能もこれにはもう無い。
もうこの紙には用など無いはずなのに、指はそれを掴んだまま離さない。
他の紙切れや、屑と一緒にするのは悔やまれて。
離せないその紙は、仕事机の二番目の引き出しに大切に仕舞う。
そんな若い行動に、自分で自分を笑ってしまう。
ただ、アナタが「明日も来る」と書いただけの小さな切れ端だけでも。
その紙切れさえも、アナタの文字で愛しいものになるのだ。
−終−
アナタなら、なんでも嬉しいんです。
2005.08.22
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