想い人
黒崎一護、気は強いが真面目で真っ直ぐで良い子供だと思われる。
頼りにしてくれることは少なからず喜ばしいことであるし、出来る限り協力してやりたいと思う。
だが、こちらも内容によるというものだ。
正座をして真剣に聞き入る一護に畳の上で尾を振りながら言葉を選んで口にする。
「じゃからな、それでは…」
しかし続けようとした言葉はパタパタと廊下を歩く音が近付いて来たので言葉を止めた。
「よーるいちサーン?ご飯っスよー?」
カラリと障子を開けて顔を覗かせたのはこの家の店主である浦原喜助。
商店の一部屋にいるのだからそれも当たり前だろう。
しかし目の前の一護はおおげさなくらいピンと背筋が伸びきり、顔を真っ赤にして慌てている。
「あ…う、浦原…さん」
言葉を詰まらせながら一護は「おじゃましてます」と口にした。
一護のその乙女のような反応を見て、頭を落とした。
そう、ただの相談ならまだ良かったのに。
喜助も、どうも、と帽子を少し下げて挨拶をしてからニッと唇を引いた。
「黒崎サンも一緒でしたか。珍しいっスね」
「夜一さんに話があって…」
後ろめたいことなど無いだろうに、浦原から目を逸らす。
「そうっスか。今から昼飯なんスけど、一緒にいかがっスか?」
どうすればいいかわからないのかこちらに助けの視線を寄こす一護。
まったく世話の焼ける。
落ち着きの無い瞳をじっと見返してから、誘いを受けろと顎で伝えた。
「あ、う、うん!貰ってもいいなら」
勢いよく返した一護に、喜助は何度か瞬きをして、それからおかしそうに笑った。
「平気っスよ。テッサイに言って来ます」
「儂はミルクだけで良いぞ、喜助」
「ハイハイ。了解っス」
笑いながら戸を閉めて去って行く。
「悪いな、夜一さん…なんか利用しちゃったみたいになっちまって」
「何を言うか、気にするな」
嬉しそうにしおって。
そもそも何であんな奴が良いのか…
「夜一さん」
「なんじゃ?」
立ち上がり、尾の先まで伸びをしながら答える。
しばらく寝そべっていたので体が固まってしまっている。
「夜一さんってホントにアイツのこと好きなんじゃ無いんだよな…?」
「……一護。何度も言うが儂はあ奴に対してそういう類の感情は微塵も持ってはおらん」
もう何度目かになる台詞に溜息も思わず漏れる。
しかし一護は、そうだよなと安堵の笑みを浮かべた。
儂が好意を寄せているやもと思うと心配なのだろうが…。
こちらとしてはおぬしの方が心配だと伝えてしまいたい。
何故よりにもよって、このような少年の想い人が、あの浦原喜助なのだ。
−終−
あぁ、もう。これだから子供は。
2005.08.19
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