万華鏡
「万華鏡…みたいっスね」
二人で服を身に着けずシーツに包まっているとき、そんなことを言い出した。
「あ?」
だから。
「黒崎サン」
甘い時間の中、彼に髪を撫でられながらうとうと仕掛けたときだった。
そんな風に切り出されてその意味なんかがわかるわけが無い。
「何が万華鏡なんだよ」
っていうか何で突然万華鏡?
「今日蔵の整理をしていてね、見つけたんスよ」
古めかしい、黒塗りの筒を両手に落とされる。
外観をじぃと眺めていると、浦原に中を見ろと進められてそのように動く。
小さな穴から月を眺めながら奥を見やる。
きらきら。
色がいち、に、さん……数え切れないほど。
くるくると回すたびにその形は姿を変えて。
宝石のようなひかりがいくつも見える。
「うわ。すげー…」
「何だか黒崎サンと似てると思いません?」
「俺と?なんで」
「ホラ。普段あんなに不機嫌そうな顔をしてるってのに…アタシの腕の中じゃ」
ツ…と指先で頬を細く撫でられまだ余韻が残る身体がビクと揺れた。
「濡れて違う顔を見せる」
耳元で低く言われ、顔に熱が篭る。
「バ…ッ!」
「怒る顔も、ホラ」
笑った顔も、怒った顔も、はにかんだ顔も。
泣いた顔も、不機嫌そうな顔も、艶っぽい顔も。
「万華鏡そっくりだ」
薄い唇に同じような薄い笑いを浮かべて頬を撫でてくれる。
「それを言うならアンタもだ」
「え…?」
「いつも間抜けな顔をしてんのに、戦いのときになると真剣になる、それに」
唖然としている浦原を見て、口の端を上げて笑う。
「俺としてるときのアンタも違う」
今のアンタも。
「は……」
「アンタも万華鏡そっくりだ」
な、と笑うと浦原は顔に影を降ろした。
「……黒崎サンてば」
呆れた声に、まさか怒ったのかと覗き込む。
「すげ。顔真っ赤だぞアンタ」
こんな顔をする浦原なんて見たこと無い。
日に焼けてもいない肌に、暗闇でもわかる赤い色。
浦原は困ったように、眉を寄せてからいつもの余裕を見せた。
「…見る余裕さえ無くしてあげましょ」
にやりと人の悪そうな笑みを浮かべ、覆いかぶさってくる。
そして唇の端にキスを軽くしてくれる。
優しく触れてくる手に流されそうになりながらも、なんとか浦原に目を留めた。
「見せてくれよ、アンタの顔」
熱い息の中、途切れた声でそう言ってやると、浦原はまた。
いつもと違う顔で笑った。
−終−
もっと違うアナタを頂戴。
2005.08.15
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