曇り硝子






会う約束はしていなくても学校の帰りに店に寄ることは暗黙の了解のようになっていて。
今日もそうやってお茶を飲んだり今日何があったっか、そういう話をするつもりでいた、だから。
「本日休業」
シャッターに貼られたそれを見て妙に裏切られたような気持ちに襲われた。

何でいないんだ。



冬の寒さはただ痛く、暖房機はいつもより高く動いていた。
自分の部屋でいつもより余裕のある空っぽの時間を過ごす。
何をするわけでも無くただベッドの背に体を倒しぼうっと、暖められ曇った窓を見つめる。
聞こえる暖房器が働く音。
うるさい家族の声が下から聞こえて来る。
だけどどこか静かなのは。

「バカ浦原」

指が露の上を滑って言葉を描く。
二文字目のカタカナをそこに書いて息を吐く。
ただ一日会えないだけで何でこんなに気分が重いのか。
文字から目を離さずベッドに横になる。
少し、浦原が言う愛が足りないという言葉がわかった気がした。
「バーカ」
抱き締めながら酷いっスねえと笑う声も返って来ない。
カタカタ揺れる窓と小さく溜め息をつく風の声。

す、き、

なんて素直に言葉に出せない性格が少し恨めしい。
ほんの隅の方に、言えない二文字が目に残る。
その文字が露になりとろりと伝う様を見て、目を閉じる。
明日には会えるだろうか。
「黒崎サン」
冷たい風が優しく名前を呼んだ気がした。










スキ→アタシも。
















   −終−






残された言葉。




2005.07.23