週末
昨日、手にしたばかりの二枚の紙。
どうしたものか、と考えたとき始めに思いついたのが今、目の前にいる男だった。
「あのさ、浦原さん。今度の土曜空いてる?」
「へ?え、そうっスねぇ、恐らく」
予定なんてカレンダーや手帳なんて物に書き込んだりもしないのだろう。
思い出そうという気さえもあるのかわからず、浦原はただ明後日の方向を見つめて曖昧な返事しか返さない。
まぁ、それでもいいか。無理矢理納得をして、ポケットから細長い紙を取り出した。
「じゃあ、ハイ」
手を開かせてその上に強引に乗せる。
「何スか…これ」
浦原はきょとん。それから手の中の物をまじまじと眺めている。
「映画のチケット。土曜までなんだ」
「え!もしかしてデートのお誘いっスか!?」
喜びと驚きの交えた声を上げる浦原に慌てて否定をする。
「バ…ッ!違うに決まってんだろ!?」
「えーでも映画の券を渡すってことは…」
「ちゃんと二枚渡してんだろ!二枚!」
ホラ!と浦原の手の中のチケットをわざわざ広げて見せた。
白と水色の薄く細長い紙には今話題の映画のタイトルがでかでかと載っている。
ペアで貰ったチケットはもう手元には残ってはいないのだ。
どうだ、とばかりに浦原を斜めから睨むと、明らかに不満気に、えー?と漏らした。
「ざーんねん。折角黒崎サンからのお誘いだと思ったんスけどねえ」
ガッカリだなぁと続ける。
それから考え事をしているのか二枚の紙をハタハタといつもの扇子のように揺しながら天井を仰ぐ。
「黒崎サン、次の土曜のご予定は?」
「あ?」
「ハイ。コレ」
答えを待たずに、先程渡したチケットを返される。
「何だよ……いらねぇの?」
そうだ、この男は映画なんてそもそも見ないかもしれない。
渡す相手を間違えたか。
「黒崎サン一緒に行ってください」
「あぁ?」
何を言ってるんだ。
思わず眉間を深くしてしまう。
「行きたくねぇ映画だからアンタに渡したんだけど…」
映画自体は嫌いじゃ無い。
でも恋愛物は苦手で、折角貰ったチケットも悪いとは思ったけど行く気にはなれなかった。
だから、あげたというのに。
「大丈夫っスよ。映画は口実っスから」
口実?何の。
そう問う前に、男が口を開く。
楽しそうに口の端を引いて、帽子の影から薄緑の目が覗く。
「デート。しましょ、黒崎サン」
固まってしまって浦原さんから目が離せない。
それに気付いているのかその薄い一枚の紙に、チュと口付けて笑う。
「で…!?」
自分でもわかるほど火照って行く顔。
それ、本気か?なんて聞けなかったのは、けして浦原さんがあまりに嬉しそうに笑ったからではなく、タイミングの問題だった……と思いたい。
−終−
デート…?俺と?浦原さんが?
2005.09.10
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