恋愛階級
アナタだけっスよ。
ね、だからいい加減アタシを信じてくれません?
「ぜってー信じねー」
不機嫌そうな顔でいつものように返って来る台詞に溜息も漏れるというものだ。
そうすると、またより一層顔を顰める。
「なんだよ、俺が悪いみたいに」
そういう意味の溜息じゃあ無いんスけど、と思ったが言い返すとまた文句が返って来るのは予想できる範囲。
険悪になりそうなものはするりと流してしまう。
「そうだ、黒崎サン。お饅頭食べます?」
「おう、貰う」
嫌われてるわけじゃないとは思う。
本当に嫌いならこうして店に寄ってくれるなんてこともあるはず無いのだから。
しかし。
「ねぇ、黒崎サン」
「んー?」
饅頭を頬張りながら興味無さ気に、しかし律儀に返事を返してくれる。
「お饅頭好きっスか?」
「あぁ、まぁ」
「でも確かチョコレートもお好きなんスよね?」
「うん」
「辛いものも好きだとか」
「そうだな」
「確か辛子明太子が好きでしたよね?」
「そうだけど」
「じゃあアタシは?」
「嫌い」
手厳しいことを言うものだ、この子供は。
わかってはいるが、何とかならないものだろうか。
本日二回目の溜息を吐くと、少年はお茶を一啜りしてから「ごちそうさん」と立ち上がる。
「もう帰っちゃうんスか?」
見上げてそう言うと「明日小テストなんだ」と返した。
学生の本分、仕方ないのだがやはり寂しい。
一方的な思いなのだからどうしようも無いのだが。
「そんな顔すんなよ」
黒崎サンはそう笑う。
「これでも大嫌いから嫌いに昇格してやったんだ、有難く思え」
少し偉そうに、子供に言い聞かすようにも見える。
「明日も来る」
そういい残すと鞄を引っ掴み、店から颯爽と去っていった。
呆然している意識はゆっくりと浮上する。
すると妙に笑いがこみ上げてきて。
「つれないっスねぇ、アタシの想い人は」
つれないくせに、最後の最後で突き放すことなんかしない想い人。
大嫌いから嫌いに。
じゃあ次は
「好きになってもらわなきゃ」
アナタだけっスよ。
ね、だから早く信じてくださいね。
−終−
こんなところで留まってなんかいられない
2006.6.7
|
|